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スポーツにおける脳震盪の本当の怖さ― SCAT5を基準にした正しい対応 ―

スポーツにおける脳震盪の本当の怖さ
― SCAT5を基準にした正しい対応 ―
スポーツ中の頭部打撲は、軽く考えられがちです。
「意識がある」「すぐ立ち上がれた」「画像検査で異常がない」。
これらの条件がそろっていても、安全とは言えません。
脳震盪は、画像に写らない脳機能障害です。
対応を誤ると、回復の遅延や重篤な合併症につながる可能性があります。
本コラムでは、国際基準であるSCAT5をもとに、脳震盪の危険性と正しい対応を整理します。
脳震盪とは何か
脳震盪とは、頭部や体への衝撃によって起こる一過性の脳機能障害です。
脳そのものに出血や明らかな損傷がなくても、脳内では代謝異常や神経伝達の乱れが生じています。
そのため、CTやMRIで異常が見られないことは珍しくありません。
意識消失を伴わないケースも多く、「軽い打撲」と誤認されやすい点が特徴です。

なぜ脳震盪は怖いのか
脳震盪の最大のリスクは再受傷です。
脳震盪後の脳は、外見上は問題がなくても、機能的には非常に不安定な状態にあります。
この回復途中に再び衝撃が加わると、症状が急激に悪化したり、回復が著しく遅れたりします。
まれではありますが、Second Impact Syndromeと呼ばれる致死的な脳浮腫を起こすこともあります。
特に、学生や育成年代ではリスクが高いとされています。
絶対にセカンドインパクトは防がなくてはなりません
SCAT5とは
SCAT5(Sport Concussion Assessment Tool 5)は、
国際的に使用されている脳震盪評価の標準ツールです。
対象は13歳以上で、医師や医療従事者が使用します。
SCAT5は脳震盪を「診断確定」するものではなく、
重症例の除外、症状の把握、経時的なフォローを目的としています。
危険なサイン(Red Flags)
以下の症状が一つでも見られる場合、直ちに医療機関での評価が必要です。
- 意識レベルの低下
- けいれん
- 繰り返す嘔吐
- 時間とともに悪化する頭痛
- 片側の脱力やしびれ
- 強い首の痛み
この場合、「様子を見る」という判断は許されません。
正しい対応の原則
脳震盪が疑われた時点で、最も重要な原則は明確です。
即競技中止です。
本人が「大丈夫」と言っても、当日の競技復帰は原則として行いません。
SCAT5による評価を行い、必要に応じて医療機関を受診します。
その後、24〜48時間の身体的・認知的休養を取ります。
段階的競技復帰(Return to Play)
症状が完全に消失した後も、いきなり試合には復帰しません。
以下のように、段階的に負荷を上げていきます。
- 完全休養
- 軽い有酸素運動
- 競技特異的動作
- 非接触トレーニング
- フル練習
- 試合復帰
各段階は最低24時間以上行い、
症状が再燃した場合は、直前の段階に戻ります。
学生・育成年代で特に重要な点
学生や育成年代では、脳の回復に時間がかかる傾向があります。
また、競技を優先するあまり、症状を隠してしまうケースも少なくありません。
競技復帰よりも、学業や日常生活への復帰(Return to Learn)を優先することが重要です。
症状を正しく申告できる環境づくりが、周囲の大人に求められます。
まとめ
脳震盪は「軽症」ではありません。
見えないからこそ、判断の遅れが重大な結果につながります。
SCAT5は、安全な対応を行うための国際基準です。
疑ったら止める。
この判断が、選手の将来を守ります。

