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野球選手の投球障害に関して 肩関節編

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野球はボールを投げるスポーツであり、肩関節と肘関節に大きな負担がかかります。その結果、多くの野球選手が肩や肘の痛みに悩まされることになります。しかし、整形外科を受診すると、「野球をやっているんだから痛いのは当たり前だよ」「投げるのを休んだら?」といった診断をされることが多いのが現状です。

本当に痛みは当たり前なのか? 休むだけで治るのか? その答えは「いいえ」です。痛みには明確な原因があり、適切な治療が必要です。単に「休むだけ」というのは不十分であり、専門的な治療が求められます。このページでは、野球選手の肩や肘の痛みに関する概要を解説し、徐々に具体的な治療法を説明していきます。

まずはじめに

野球をしていて肩が痛い場合にMRIなどで明らかな問題が見つかることは少ないです。

しかし、ないわけではないのでまずはそこの説明をします。

①上腕骨骨端線離開

②SLAP損傷

③腱板損傷(インピンジメント症候群)

④神経障害(腋窩神経、肩甲上神経、肩甲背神経)

しかし、上記の損傷があったとしても手術加療が必要になることはほとんどなく日本で一番野球選手を見てると言っても過言ではない施設の発表では近年の投球障害に対する理解が進んできてリハビリ加療で改善できる症例がほとんどで手術加療をしなければならないものは少ないと言われております。

なので上記①〜④の疾患に関しては詳しく別項で解説します。

ここでは簡単に解説だけします。

野球肩の疾患について 各論

上腕骨骨端線離開(リトルリーガーズショルダー)

リトルリーガーズショルダーとは?

リトルリーガーズショルダーは、小学生高学年に多く見られる肩の障害です。この疾患は、上腕骨の骨端線という成長線の部分が繰り返される投球によるストレスで離れてしまうことで発生します。成長期の子どもたちにとって、骨端線はまだ完全に硬化していないため、投球動作の繰り返しによって負担がかかりやすいのです。

症状と診断

リトルリーガーズショルダーの主な症状は、肩の痛みです。特に投球時に痛みが強くなります。診断は、レントゲン撮影によって行われ、骨端線の離開が確認されます。

治療と回復

一般的には、1ヶ月から2ヶ月程度の投球の休息をとることで、症状は改善されます。安静期間中は、他の軽い運動やリハビリを行い、肩の負担を減らすことが重要です。

原因と予防

この疾患が生じる主な原因は、投げ方にあります。肩に過度な負担がかかるフォームで投球を続けると、リトルリーガーズショルダーのリスクが高まります。したがって、適切な投球フォームを学び、肩に負担のかからない動作を身につけることが重要です。

SLAP損傷

SLAP損傷は、上腕二頭筋腱長頭という腱が肩甲骨に付着する部分の損傷を指します。この部分は、繰り返される投球動作や高負荷の運動により損傷しやすくなります。

野球選手とSLAP損傷

一般的に、高いレベルで競技を行う野球選手には高確率でSLAP損傷が存在すると言われています。しかし、SLAP損傷があるからといって、必ずしも直ちに治療が必要なわけではありません。

対処法と予防

SLAP損傷が疑われる場合でも、まずは以下の方法で対応することが重要です:

  1. 負担のかからない投げ方の習得
    • 肩に負担のかからない適切な投球フォームを学ぶことが重要です。専門のコーチやトレーナーの指導を受けることをお勧めします。
  2. 肩甲胸郭機能の改善
    • 肩甲骨と胸郭の動きを改善することが大切です。これにより、肩の安定性が向上し、負担が軽減されます。リハビリや特定のエクササイズを取り入れることで、肩甲胸郭機能を強化できます。

腱板損傷(インピンジメント症候群)

一昔前はほとんどがこの腱板損傷やインピンジメント症候群で野球肩の症状は片付けられていた印象ですが、近年エコーやMRIその他リハビリの進化によって、この病態だけで起こっていることはほとんどないということが判明してきており、あまり手術をすることも少なてくなってきております。

なので、基本的にはこちらもリハビリで肩甲胸郭機能を改善させることが一般的には大事になります。

神経障害

野球選手と神経障害

野球選手の多くが肩痛を訴える際、その背後には神経障害が存在していることが多いです。具体的には、以下の3つの神経障害が関与していることがあります:

  1. 腋窩神経障害
  2. 肩甲上神経障害
  3. 肩甲背神経障害

神経障害の原因

これらの神経は、投球時に圧迫を受けたり、周囲の筋肉のタイトネスによって常に圧迫を受けることで神経障害が生じます。

  • 腋窩神経障害:腋窩神経が圧迫されると、三角筋や小円筋に影響が出ます。
  • 肩甲上神経障害:肩甲上神経が圧迫されると、棘上筋や棘下筋に影響が出ます。
  • 肩甲背神経障害:肩甲背神経が圧迫されると、菱形筋や肩甲挙筋に影響が出ます。

神経障害の影響

神経障害が生じると、それぞれの神経が支配する筋肉がうまく作用せず、以下のような問題が発生します:

  • 筋肉の硬さ:筋肉が硬くなり、柔軟性が低下します。
  • 筋出力の低下:筋肉の力が弱まり、投球パフォーマンスが低下します。

野球の肩痛の評価:後方組織のタイトネス

野球選手が肩の痛みを訴えて来院した際、最初に評価するべきなのがHERTです。HERTとはHyper External Rotation Testの略称で、上腕の外旋範囲を確認するテストです。

HERTの実施方法

患者さんが仰向けに寝た状態で、投球動作に似た形にして手を後方に引きます。このときに痛みが出るかどうかを確認します。痛みが出る場合は、HERT陽性と判断されます。

HERTが陽性になる理由



HERTが陽性になる原因の一つは
「後方組織のタイトネス」によるものです。
後方組織が硬くなることで、上腕骨頭が前方にずれてしまい、痛みが発生します。
この状態は、上腕骨頭の求心位を保てなくなることが原因で生じます。

後方タイトネスの評価

後方タイトネスの評価方法として重要なのが3rd内旋です。3rd内旋とは、上腕を内旋させることで後方組織の柔軟性を評価する方法です。具体的には、次のように行います。

  1. 患者さんが前ならえしてもらいます。。
  2. 肘を90度曲げた状態で、手を内側に回旋させます。
  3. この時内旋制限があると腕が下に落ちませんn

このとき、内旋の動きに制限がある場合は、小円筋という筋肉が硬くなっている可能性があります。この小円筋の硬さが後方タイトネスに影響を与え、痛みの原因となることがあります。

小円筋の硬さを解消する方法

小円筋の硬さを解消するためには、次のようなストレッチやエクササイズが効果的です。

  1. 小円筋ストレッチ:
    • 患者さんは横向きに寝て、肘を90度曲げた状態で肩を外転させます。
    • 手をゆっくりと後方に引き、内旋の範囲を広げます。
    • この状態を20~30秒間保持し、3セット行います。

後方組織のタイトネスを改善することで、肩の痛みを軽減し、投球動作をスムーズに行えるようになります。ぜひ、これらの評価方法と改善方法を試してみてください。

腋窩神経のハイドロリリース

、腋窩神経が小円筋を支配していることに着目しています。投球動作を繰り返すことで、この腋窩神経が圧迫を受け、神経障害を引き起こし、小円筋のタイトネスを招くことがあります。

ハイドロリリースの治療法

ハイドロリリースは、圧迫されている腋窩神経周囲に生理食塩水を注射する治療法です。この治療法は、神経の圧迫を軽減し、血流を改善することで、症状を和らげる効果があります。

治療の手順
  1. 診断:まず、腋窩神経の圧迫による症状が確認されます。
  2. 注射:次に、圧迫部位に生理食塩水を注射します。
  3. 効果:注射後、神経の圧迫が軽減され、痛みやタイトネスが改善されます。

ハイドロリリースのメリット

  • 即効性:治療後すぐに効果を感じることができます。
  • 非侵襲的:手術を必要としないため、リスクが少なく回復も早いです。
  • 簡便さ:短時間で施術が完了します。

野球肩痛の評価:肩甲胸郭機能の評価

運動連鎖(キネマティックチェイン)とは?

野球でボールを投げる動作は、肩関節だけでなく身体全体を使って行います。これを「運動連鎖(キネマティックチェイン)」と呼びます。この連鎖を意識することが、効率的で力強い投球につながります。

肩甲骨の重要性

肩甲骨は肋骨の上に乗っており、滑るように動きます。肩甲骨が体幹にしっかりとセットされることで、力が体幹から肩、そして末梢へと効率的に伝わります。今回は、肩甲骨の評価が肩痛においてどれほど重要かを解説します。

肩甲骨の評価方法

以下の動画で、肩甲骨の評価方法を解説しています:

肩甲胸郭が安定しないと、肩を上げる際に肩関節が安定しません。特に、肩甲背神経のハイドロリリースを行うことで、大菱形筋や肩甲挙筋など、肩甲骨の内側にある筋肉の力が入るようになり、肩甲胸郭を安定させることができます。これにより、投球時に肩が安定し、パフォーマンスが向上します。

投球時の評価とアプローチ

投球時に肩痛が生じる場合、その原因をきちんと評価し、適切なアプローチを行うことが重要です。安静にするだけでは、野球肩の根本的な解決にはなりません。肩甲骨や神経、筋肉の状態を適切に評価し、リハビリテーションや治療を行うことが、肩痛の改善につながります。

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Drシロー(岡崎史朗)
Drシロー(岡崎史朗)
日本整形外科学会専門医/三栄会広畑病院整形外科医長 プロスポーツチームDr
姫路で整形外科医/スポーツDrとして日々苦しむ患者様のために奮闘中 わかりやすい説明と適切な処置でたくさんの悩む患者様やアスリートを救う    
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